「求められる転職」より「求める転職」の方が、難しい?
転職には、自分から「求める転職」と、会社から「求められる転職」があり、棚ぼたのように降って来る「求められる転職」が、日本の転職募集の3分の1を占めているという話が前回でした。
自分から積極的に仕事を求めていく「求める転職」よりも、他人だより、運だよりの「求められる転職」の方が、難しそうですが、実際は、「求める転職」の方が、想像してる以上に、いろいろと難しい問題を抱えているのです。
それを整理して、「求められる転職」を勧めている本が、山口周『天職は寝て待て』です。この本の内容をヒントに、私なりに「求める転職」の難しさを考えて、簡単に整理してみます。
「求める転職」の難しさ
「求める転職」の3ステップ
「求める転職」とは、「転職」と聞いて、フツーに思い浮かべる流れです。
①まず自分が好きなことや得意なことから、自分がどんな仕事をやりたいかを考える。
②次に、できるだけその「理想の仕事」に近い条件の仕事を探す。
③それが見つかれば、その「理想の仕事」を得るために頑張る。
難問だらけの「求める転職」
しかし、この「求める転職」は、以下の五つの難問があります。
- 業界や会社の外から、実際の仕事内容はわからない
- 実際に3年やってみないとわからない
- 「好き」と「憧れ」は違う
- 自分の能力が、実際に社会で通用するかどうかわからない
- 理想の仕事や会社が、将来もあるとは限らない
1.業界や会社の外から、実際の仕事内容はわからない
「金さえもらえば、どんな仕事でもやる!」
そんな人なら、転職で悩まないでしょう。大多数の人は、金だけでは働かないので、まず、自分がどういう仕事をやりたいかを考えると思います。
- 自分は、何が好きか?
- 自分は、何を面白いと思うか?
- 自分は、何が楽しいと感じるか?
- 自分は、何に充実感を感じるか?
- 自分は、何にやる気を感じるか?
- 自分は、何が向いてるか?
- 自分は、何が得意か?
そのような「自分は、何をやりたいか?」について考えます。
「自分のことだから、自分でわかるはず」
そう思うかもしれないのですが、それがそう簡単ではないのです。
- 面白そうな映画だったが、実際に観たら、意外と面白くなかった。
- やりたかったゲームが、やってみたら、意外とつまらなかった。
- 期待してた観光名所だが、行ってみたら大したことなかった。
その逆に「期待以上だった」ということもありますが、いずれにしても、映画やゲームや観光など、沢山の経験があるジャンルでさえ、事前の予想は外れることがあるのです。まして、一度も経験したことがない仕事や会社について、事前に正確に予想できることは不可能に近いでしょう。
就職希望人気ナンバー1のJTBは、添乗員として世界各地を飛び回り旅するイメージがあるのですが、実際は、添乗員はすべて外注なので、JTBに就職しても添乗員にはなれず、実際の仕事は、営業や接客がほとんどだそうです。他の会社で添乗員になれたとしても、その仕事は、他人が旅を楽しむようにすることであり、自分が旅を楽しむことではありません。どのお客様より遅く寝て、どのお客様より早く起きて、全員の満足と安全の確保に心を砕き、自分が悪くもないのにクレームを浴びまくったり…。添乗員の仕事は、旅行が好きな人ではなく、他人の世話が好きな人に向いてると言われています。
どの業界や会社でも、外から、どういう仕事をやってるかを正確に把握することは難しく、やる前と後とで、必ずイメージのギャップがあるものです。どんな仕事をやるかもわからないのに、その仕事が好きになるか、面白く感じるか、楽しいと思うか、充実感を感じるか、やる気を感じるか、自分に向いてるか、自分が得意か…なんて、わからないことが多いということです。
2.実際に3年やってみないとわからない
どんなことも、基礎的な技術を身につけて、しばらく続けてみないと、わからないことがあります。
- 九九や公式を憶えないと、数学の難問を解く面白さはわからない
- 言葉や漢字を憶えないと、優れた文学作品の良さはわからない。
- キャッチボールができないと、野球の楽しさはわからない。…等々
「石の上にも三年」という言葉がありますが、どんな仕事も、基礎的な知識や技術を身につけて、それを応用して力を発揮するには、最低でもそれぐらいの時間がかかるという経験則なのでしょう。
つまり、どんなに業界や会社の外から、ある仕事の中身について調べたり、聞いたりして、正確な情報を集めたところで、その仕事の面白さや楽しさ、仕事をやって得られる満足感や充実感、向き不向きなどは、実際に、3年は、やってみないとわからない!ということです。
3.「好き」と「憧れ」は違う
仮に、自分がやりたい仕事が見つかって、その仕事が実際にどんなことをやるかを正確に知り、実際に何年か経験したとしても、あれ?なんか違う。面白くない。と感じることもありえます。
- 医師になりたいけど、患者さんを治療しても満足感はない
- ミュージシャンになりたいけど、音楽が楽しくない
- パティシエになりたいけど、お菓子づくりが面白くない
- 警察官になりたいけど、まちの治安には関心がない
たとえ憧れの仕事に就いたとしても、それでは、ずっとつまらない仕事をし続けることになります。
「好き」と「憧れ」は違う
「〇〇をしたい」と「□□になりたい」は違う
のですが、どうしてもカッコいい仕事やイメージが良い仕事、社会的ステータスが高い仕事などでは、それらを混同してしまいがちです。
(※ただし、その分野の本を何冊か読んでみて面白いと思うかどうかで、自分がその分野が好きかどうか、ある程度わかるらしいです)
4.自分の能力が、実際に社会で通用するかどうかわからない
「十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人」という ことわざがあります。子供の頃は周囲に天才だと騒がれても、大人になる頃には、すっかり凡人になってることが多いということです。
大人になると、より広い社会に出て、町内会レベルで1位でも、全国レベルではそういう人が何十万人もいる、ということは、よくあることです。
それだけでなく、子供の頃は、記憶力が良いとか、計算が早いとか、学習能力が高いとか、そういうことが評価されますが、大人になると、ただけそれだけでは評価されず、組織や社会の中で、どれだけ役立つかが問われます。
例えば、子供の頃、ピアノを正確かつ速く弾けて、上達するのも驚異的に速ければ、周囲に天才だと騒がれるでしょう。しかし、大人になると、ただ速く正確に弾けるだけでは、誰もコンサートを聴きに行ったり、CDを買ったりしません。演奏を聴いた人に感銘や感動を与える表現力が問われます。その評価されるポイントは、社会や時代によっても違ってきます。
どの分野でも、会社や社会が必要な能力というのは複雑で不透明で、しかも時代によっても変わって来るため、長く会社にいる人でさえ、それを明確な言葉にすることは難しかったりします。まして、その分野や会社のことを知らない一個人が、自分の能力が実際に通用するかどうかを判断することは難しいでしょう。
もしかしたら、どんなに努力しても、自分が望む仕事で能力を発揮できるかどうか、わからないのです。
逆に、今は不得意に見えても、会社や社会の中でもまれる中で、潜在的な力が発見され、磨かれ、成長するということもあるでしょう。自分で何が得意かを決めつけることは、自分の選択肢を狭めることにもなるのです。
5.理想の仕事や会社が、将来もあるとは限らない
(1992年時の文系大学生の就職人気ランキングのリストの)上位50社のうち、三分の一に当たる16社が、合併や破綻によっていまは存在していません。
山口周『天職は寝て待て』より
理想の仕事や会社が確実にあり、そこで求められてることも正確に把握した。あとは、その目標を目指して、頑張って努力するだけだ!
仮にそうだとしても、その目標に辿り着く頃に、その目標となる仕事は消えているかもしれません。目標に到達しても、すぐに消えるかもしれません。消えてなくても、大きく変わっているかもしれません。いつまでも理想の仕事がそこにあると思って、自分の努力をすべてそれに賭けるのはギャンブルでもあるのです。
理想と現実のズレがツライ「求める転職」
このように、「求める転職」では、
①求める理想の仕事や、それに対する自分の現実の能力について、明確にはわからないために、なかなかゴールに到達できません。
②それでいて、つねに「理想と現実のズレ」だけは、明確に意識されて、つねに自己否定的な気分になりがちです。
いつまでもゴールに到達できない上に、自己否定的な気分になり続けるんですから、自己実現を真面目に追及すればするほど、ツライですね。
「求める転職」から「求められる転職」へ
このズレつづける「求める転職」に対して、ズレに対応してズレを縮めていくのが「求められる転職」であり、次回、考えてみます。